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風呂からあがって、カゴの水を替えてやろうと、急いでリビングに来ました
近視なので机上のメガネをかけてから、振り向いて歩き出しました
直後、左足が何かを踏みました
スリッパを履いていたので、体重が移ってしまうまで分りませんでした
ティッシュの空き箱を踏み潰した時のような感触が足裏にありました
「パキッ」と木管系の音がしました
「キッ!」と鳴き声がして(回想してみると)、
バタバタと羽音がして、鳥がテーブルの下を低く飛び、
キッチン台に止まりました
足下を見るとジュータンの上に羽毛が散乱しています
事の重大さを認識しました
「うわあ、シナピーを踏んでしまった!」
大声で叫びました
キッチン台に目を移すと、シナピーの体は右斜め前方に傾いていました
(脚を骨折したのか?)
家族の方を振り向いて、
「大変だ!シナピーが大変だ」
援軍を求めました
皆は冗談と思っているのか、床暖房から誰も身を起こしません
「シナピー、大丈夫か?」
キッチン台に恐る恐る近づいている間にも、
シナピーの頭は、クチバシをこちら向きにして左に、くずおれていきました
まぶたは閉じられかけていました
「シナピーが死にかけている!」
脳内恍惚物質の分泌が始まっているのか、
トロンとした目つきになっていました
今まで、一度も見たことがない優しいまなざしでした
(いつもは、どちらかというとタカなどの猛禽類の目つきでした)
視線が合いました
「さようなら、長い間ありがとう」
不思議にも、右の方から、頭の中に声が聞こえたような気がしました
(シナピーの頭が横たわっている方向からです)
感謝の気持を伝えてきているのが、ハッキリ分りました
私がまなざしから読み取ったというより、
シナピーが気持を発信していたのだと思います
ああ、もうダメなんだ、直感しました
(待ってくれ、行ってはいけない!)
思わず心の中で叫びました
ほんの数秒の内にまぶたは閉じられてしまいました
完全に横たわってしまった体を、そっと持ち上げようとすると、
首も胴体もふにゃふにゃして、
なかなか手の平に移せませんでした
クチバシと足指は血の気が失せて、体温は低くなっていました
外傷は発見できませんでした
まるで眠っているようでした
ショック状態で気絶しているだけなのかも知れない、蘇生するかも知れない
一縷の期待にすがって、両手の平に包んで、風呂上りの体温を与えました
(目を覚ましてくれ!)
題目を念じました
しかし、体は冷たくなっていくばかりでした
悲劇の発生から息をひきとるまで、その間、1分足らずだったと思います
ケイレンも無く、長く苦しむことも無かったのが、せめてもの慰めです
生前していたように、頭の毛を撫でてやると、涙が溢れてきました
オモチャ柄のハンカチに乗せられ、
仏壇の前に安置された姿は、小さな子供の遺体のようで、
涙がポロポロとこぼれ落ちました
後はもう、寝ていても、涙がポタポタ止まりませんでした
翌日はまぶたが腫れて、電車では窓外を向いていました
「パキッ」という音は首の折れる音だったのか?
それとも、肋骨の折れる音だったのか?
調べてみると、音の直後、4m飛んで、84cm上昇して、
キッチン台にたどり着いたことになります
最後の全力を使い果たしたのでしょう
キッチン台はシナピーにとって、日頃の避難場所でした
家族の誰かが大きなダンボールなどを動かすと、
慌てて、キッチン台の上に逃げ込んでいました
別れの悲しみと、不注意な自分に対する失望が重なって、
つらい日々を過ごしています
足にぶつかって、ヒヤッとしたことは何度もありました
あの時、スリッパを履いていなければ、悲劇を回避できたかも知れません
素足だったら…
風呂から出たばかりで、シナピーの位置を把握できていませんでした
床にいるのが分っていれば…
洗面所を急いで使用する心の焦りがなければ…
カゴから出していなければ…いや、手乗りはストレスが溜まります
振り返った時、足元でなければ見えたのでは…
後悔ばかりで、「たら」と「れば」の堂々巡りです